脊椎関節炎・リウマチセンター
センター理念
「脊椎関節炎・リウマチセンター(SpaRC:Spondyloarthritis–Rheumatology Center)」は、
1 正確な診断と最適な治療で、患者さんの「今」と「未来」を支え続けます
2 多くの診療科とスタッフが力を合わせ、一人ひとりの生活の質(QOL)を最大限に高めます
3 日々の診療から生まれる学びを研究や教育へとつなげ、地域とともに未来の医療を育てていきます
を使命とし、患者さん一人ひとりの人生に寄り添い、共に歩み続ける診療を目指します。
私たちは、病気に立ち向かう患者さんとご家族にとって常に信頼できる存在でありたいと願っています。そのために、最先端の医療と温かい心のケアを融合させ、患者さんが笑顔で日常を取り戻せるよう全力を尽くします。
さらに、日々の診療から生まれる研究を未来の新しい治療へとつなげ、次世代の患者さんにも希望を届けることを目指しています。地域社会とのつながりを大切にし、全国の医療機関や医療従事者と協力しながら、脊椎関節炎・リウマチ医療の発展に貢献してまいります。
概要
脊椎関節炎や関節リウマチといったリウマチ性疾患は、診断の遅れや併存症の進行が問題となりやすく、専門的かつ全人的な医療が求められる病気です。
当院ではこれまでに多くの診療実績を積み重ね、その経験をもとに 2025年10月に「脊椎関節炎・リウマチセンター(SpaRC)」を開設 いたしました。
私たちの目標
患者さんができる限り通常の生活を送れるように、早期発見・早期治療と生活の質(QOL)の向上を目指します。病状や生活背景に合わせて、最適な治療の選択肢をご一緒に考えてまいります。
特色・トピックス
チーム医療の実践
整形外科、呼吸器・免疫内科、皮膚科、内分泌代謝内科、消化器内科、耳鼻咽喉科頭頚部外科、眼科、リハビリテーション科(室)、看護部、薬剤部、管理栄養室、医療連携室など、多診療科・多部門が連携し、包括的で専門的な医療を提供しています。
特に2019年に設立された 「乾癬センター」との協働 は大きな特色です。
乾癬センターでは、尋常性乾癬約1,200名、掌蹠膿疱症約120名の患者さんを、5名の皮膚科医(うち3名は皮膚科専門医)が診療しています。
その基盤を活かし、乾癬性関節炎や掌蹠膿疱症性骨関節炎についても、皮膚科と整形外科が連携し、質の高い診療を実現しています。
特に火曜日には Eブロック皮膚科ブースで「乾癬性関節炎外来」を2005年から開設し、20年以上にわたり皮膚科と整形外科(担当:辻)が共同診療体制を継続 しています。そのことは患者さんに安心と利便性を提供しています。
リウマチロコモチェック外来(週1回・金曜日)
関節や脊椎病変の評価に加え、骨粗しょう症・サルコペニア・フレイルといった全身の健康状態も総合的に評価します。
リウマチ内科(免疫内科)とリウマチ関節外科(整形外科)が協働して診療を行うのが特徴です。
患者教育プログラム
各専門職が連携し、患者さんご自身が病気と向き合えるよう支援します。
- 看護師:生活指導、生物学的製剤の自己注射指導
- 薬剤師:薬剤指導
- 管理栄養士:栄養指導
- 理学療法士・作業療法士:運動・日常生活(ADL)の指導
- 医療ソーシャルワーカー(MSW):公的サービス利用のサポート
リウマチ専門医の育成
当院は日本リウマチ学会教育施設(大阪府内44施設の一つ)として、次世代を担うリウマチ専門医の育成に力を注いでいます。特に、脊椎関節炎およびリウマチ性疾患に習熟した専門医の養成に取り組んでいます。
専門看護師の育成
当院では、リウマチナースおよびフットケアナースを育成し、足のケアや感染予防を含め、リウマチ疾患や脊椎関節炎に対して全人的な看護を実践できる看護師の養成に取り組んでいます。
治験・臨床研究
新しい治療法の開発、バイオマーカー探索、診療の標準化を目指し、複数の治験や臨床研究を進めています。
地域医療との連携
脊椎関節炎やリウマチ性疾患は、長期的なケアが必要です。地域の診療所・基幹病院と連携し、紹介・逆紹介体制を整えることで、患者さんが地域で安心して継続診療を受けられるよう支援しています。
カンファレンス・勉強会
院内
- 整形外科、呼吸器・免疫内科との合同臨床カンファレンス(隔週)
- 乾癬センターとの3科(皮膚科、呼吸器・免疫内科、整形外科)合同カンファレンス(月1回)
- 脊椎関節炎・リウマチセンター合同カンファレンス(年2回)
院外
- 3病院合同ZOOM抄読会(毎週金曜:NHO大阪南医療センター、奈良県西和医療センター、日本生命病院)
- 4病院リウマチ合同カンファレンス(年1回:新潟県立リウマチセンター、兵庫県立加古川医療センター、NHO大阪南医療センター、日本生命病院)
さらに、地域の医師や医療従事者を対象とした教育セミナー(SpA塾)や研修を開催し、診療技術・知識を共有することで、地域全体の医療の質向上に貢献しています。
診療体制
【Bブロック(整形外科)】
- 辻:木曜午前・午後:整形(膝・足の外科、脊椎関節炎)
- 辻:金曜午後:脊椎関節炎外来・リウマチロコモチェック外来
【Eブロック(整形外科)】
- 辻:火曜午前・午後:乾癬性関節炎外来
【Aブロック(呼吸器・免疫内科)】
- 村上:月曜午前、水曜午前、金曜午前
- 廣海:火曜午前
<外来受診について>
当院外来の受診には紹介状と診療予約が必要です。まず近隣の病院・診療所で紹介状をご用意いただき、当院「あったかサポートセンター」を通じてご予約ください。
対応疾患
- 膠原病一般:呼吸器・免疫内科
- 関節リウマチ:呼吸器・免疫内科、整形外科
- 脊椎関節炎:整形外科、呼吸器・免疫内科
- リウマチ疾患患者さんのロコモティブ症候群・サルコペニア・フレイル・骨粗鬆症:リウマチロコモチェック外来(整形外科:辻)
対象となる疾患の紹介
脊椎関節炎(SpA:Spondyloarthritis)
脊椎関節炎(SpA)は、脊椎(背骨)、仙腸関節、四肢の関節、さらに腱や靭帯が骨に付着する部位に炎症を起こす慢性炎症性疾患の総称です。特徴として、関節の内部だけでなく腱や靭帯の付着部(enthesis)にも炎症が及び、これを付着部炎(enthesitis)と呼びます。
主な症状
- 腰背部痛(3か月以上持続し、運動で改善することが多い)
- 朝のこわばり(動かすと軽快するのが特徴)
- 仙腸関節炎による臀部痛
- アキレス腱や踵の痛み(付着部炎)
- 指や足趾全体が腫れるソーセージ様腫脹(dactylitis)
比較的若年(10代後半~40歳代)に発症することが多く、乾癬、炎症性腸疾患、ぶどう膜炎など全身性疾患との関連も知られています。
分類
- 体軸性SpA(axial SpA):脊椎や仙腸関節に炎症をきたすタイプ
・強直性脊椎炎(Ankylosing Spondylitis)
・non-radiographic axial SpA(nr-axSpA) - 末梢性SpA(peripheral SpA):四肢の関節や腱付着部を障害するタイプ
・乾癬性関節炎(Psoriatic Arthritis)
・炎症性腸疾患関連SpA(IBD-related SpA)
・ぶどう膜炎関連SpA
・反応性関節炎(Reactive Arthritis)
・分類不能SpA(Undifferentiated SpA)
診断
近年、MRIや関節超音波検査の進歩により早期診断が可能となっています。診断は臨床症状の経過、画像所見(X線・MRI)、血液検査(炎症マーカー、HLA-B27)などを総合的に評価して行います。
治療目標
- 疾患活動性の抑制(寛解または低疾患活動性を目指す)
- 疼痛やこわばりの改善
- 身体機能・生活の質(QOL)の維持向上
- 構造的損傷(関節破壊や強直)の進行抑制
- 社会活動・就労の継続支援
ASDASやBASDAIなどの疾患活動性評価指標に基づくtreat-to-target戦略が推奨されています。
治療法
- 薬物治療:NSAIDs、csDMARDs(主に末梢関節炎に使用)、bDMARDs(抗TNFα抗体・抗IL-17抗体など)、tsDMARDs(JAK阻害薬など)革新的な薬剤が開発され治療に応用されています
- 薬物以外の治療:リハビリテーション・運動療法、生活指導(禁煙、体重管理、運動習慣)、教育とサポート
当院の特徴
当院では特に乾癬性関節炎(PsA)の診療に注力しています。皮膚科と整形外科が同一外来で協働し、皮膚症状と関節炎を同時に評価・治療しています。さらに乾癬センターとの連携により、多職種による包括的診療を提供しています。
関節リウマチ(RA)
関節リウマチは、手や足の関節が腫れて痛む病気で、特に20〜50代の女性に多くみられます。朝のこわばりから始まり、進行すると関節が壊れて変形してしまうことがあります。
近年は治療が大きく進歩し、飲み薬や注射薬(生物学的製剤)によって関節破壊を防ぐことが可能です。特に発症から6か月以内(できれば3か月以内が良い)に治療を開始することが大切です。
当院では妊娠や出産の希望、合併症の有無などを考慮しながら、一人ひとりに合わせた治療を行います。さらに多くの患者さんが希望される 「リウマチ内科医と整形外科医による共同診療」 を実現し、関節や脊椎の障害を早期に発見・対応できる体制を整えています。整形外科専門医による 「リウマチロコモチェック外来」 とも連携し、関節や体の動きを守るサポートを行っています。
掌蹠膿疱症性骨関節炎(PAO)
掌蹠膿疱症性骨関節炎(PAO)は、胸骨・肋骨・鎖骨といった前胸壁に80〜90%の患者さんで痛みが出ることが特徴的な病気です。皮膚の病気「掌蹠膿疱症」と深く関連し、皮膚症状と関節・骨の炎症が一緒に現れることがあります。
また、扁桃炎・歯の感染・慢性副鼻腔炎などの病巣感染が関与することが多く、感染源の治療がとても重要です。そのため耳鼻咽喉科や歯科口腔外科(院外連携)と連携して診療を行っています。
当院では、整形外科・皮膚科に加え、耳鼻咽喉科や歯科口腔外科(院外連携)とも協力し、包括的な診療体制を整えています。
リウマチ性多発筋痛症 (PMR)
50歳以上、特に高齢の方に多くみられ、急に肩や腕、太もも、首の周りに痛みや強いこわばりが生じる病気です。朝方に症状が強いのが特徴で、適切なステロイド治療を行うことで劇的に症状が改善します。整形外科とも連携し、高齢者のQOL(生活の質)低下を防ぎます。
全身性エリテマトーデス(SLE)・ループス腎炎
全身性エリテマトーデス(SLE)は、免疫の異常により全身に炎症が起こる病気です。発熱、関節痛、皮疹、脱毛などが特徴で、特に若い女性に多くみられます。腎臓に炎症が起こると「ループス腎炎」と呼ばれます。
以前は長期入院が必要な難病とされていましたが、診断・治療の進歩により、副作用を抑えながら、勉強・仕事・妊娠出産・旅行など日常生活をできる限り維持できるよう支援しています。
抗リン脂質抗体症候群 (APS)
血液が固まりやすくなる「抗リン脂質抗体」という自己抗体が原因で、血管が詰まる血栓症や、習慣性流産・不育症を引き起こす病気です。
この病気をお持ちの方の妊娠・出産には、血栓症予防など極めて専門的な周産期管理が必要となります。患者さんが安心して安全な出産を迎えられるよう、当院では産科や不育症を専門とする高次医療機関と緊密に連携しており、妊娠を計画される段階から責任をもって最適な施設へご紹介いたします。
多発性筋炎・皮膚筋炎(PM/DM)
筋肉の炎症により「階段が昇りにくい」「腕が上がりにくい」といった筋力低下や、まぶたの腫れぼったい赤み、手指の関節の外側にできるカサカサした皮疹(ゴットロン丘疹)などが特徴的な病気です。間質性肺炎を合併しやすく、呼吸器内科や皮膚科との緊密な連携のもとで診断・治療を進めることが非常に重要です。
全身性硬化症(強皮症)と肺高血圧症
全身性硬化症(強皮症)は、皮膚や内臓が硬くなる膠原病の一つです。以前は進行を止めることが難しい病気とされていましたが、現在では早期診断と治療によって進行を抑えることが可能となっています。
特に注意が必要なのが肺高血圧症で、放置すると命に関わることがあります。当院では循環器内科・呼吸器内科と連携し、早期に適切な治療につなげています。
シェーグレン症候群
涙や唾液を作る腺に免疫細胞が集まることで、目や口が乾燥する自己免疫疾患です。関節痛、倦怠感、皮疹など全身症状を伴うことも少なくありません。他の膠原病に合併することもあります。当院では眼科や耳鼻咽喉科と連携し、乾燥症状の緩和から全身の管理まで、きめ細やかな診療を行っています。
混合性結合組織病(MCTD)
全身性エリテマトーデス(SLE)、全身性硬化症、多発性筋炎・皮膚筋炎の3つの病気の症状や特徴を併せ持つ病気です。寒冷刺激で指先が白や紫色になるレイノー現象が高頻度にみられます。肺高血圧症などの合併症に注意が必要であり、各専門科と連携して定期的な検査と適切な治療を行います。
血管炎
血管炎は血管に炎症が起こる病気で、血流が悪くなるとお腹の痛みやしびれ、皮膚の壊死などが起こり、血管が破れると血痰・血尿・紫斑が現れることもあります。
血管の大きさによって「大血管炎」「中血管炎」「小血管炎」に分類され、症状も多様です。重症化すると臓器障害につながるため、早期診断と治療開始が重要です。当院では再発時も含め迅速に検査・治療を行い、患者さん一人ひとりに最適な薬を選んでいます。
ベーチェット病
ベーチェット病は、口内炎や外陰部の潰瘍、皮膚症状、眼の炎症などが繰り返し起こる病気です。特に口内炎はほとんどの患者さんにみられ、視力障害につながることもあります。
診断は一つの検査で行うのではなく、症状や検査結果を総合的に判断します。治療にはコルヒチン、ステロイド、新しい注射薬(生物学的製剤)などを用い、症状を抑えることができます。
成人発症スティル病
連日39℃を超えるような高熱(弛張熱)、サーモンピンク色の特徴的な皮疹、強い関節痛が三つの柱となる病気です。診断が難しいこともありますが、豊富な経験をもとに鑑別診断を丁寧に行い、早期に適切な治療を開始することを目指します。
小児リウマチ・膠原病
小児のリウマチや膠原病はまれで、専門的に診療できる施設は限られています。当センターでは、小児患者さんは連携する小児科病院をご紹介し、成長に合わせて成人後は当院で継続治療を受けられるよう体制を整えています。学校生活に配慮しながら、ご家族と共に治療を進めていきます。
妊娠・出産サポート
リウマチや膠原病をお持ちの女性が安心して妊娠・出産を迎えられるよう、妊娠前から計画的に病気をコントロールし、妊娠中・出産・授乳期まで切れ目のない支援を行っています。
当院では産婦人科・小児科と連携したチーム医療を実践し、母子ともに安全で安心できる医療体制を整えています。女性医師も中心となって対応し、患者さん一人ひとりのライフプランに寄り添った診療を心がけています。
※「妊娠出産サポート外来」という専用外来は設けていませんが、通常の診療の中で関係診療科と連携して支援を行っています。
スタッフ紹介
診療科メンバー
- 医師:(整形外科、呼吸器・免疫内科、皮膚科、内分泌・代謝内科、消化器内科、眼科、耳鼻咽喉科・頭頸部外科)
- 看護部
- リハビリテーション科
- 薬剤部
- 管理栄養室
- 医療連携室



